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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)147号 判決

原告 株式会社アマンド洋菓子店

右代表者代表取締役 瀧原健之

右訴訟代理人弁理士 井上清子

同 亀川義示

被告 特許庁長官 若杉和夫

右指定代理人 村越祐輔

〈ほか二名〉

主文

特許庁が、同庁昭和四九年審判第九五号事件について昭和五七年四月二三日にした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二原告の請求の原因及び主張

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四一年四月一六日特許庁に対し、別紙目録記載のように、「アマンド」の片仮名文字を、牡丹色(ピンク)に赤紫色を混ぜたような色で左横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、第三〇類「菓子、パン」を指定商品として(後これを「洋菓子」と訂正した。)商標登録出願した(昭和四一年商標登録願第二〇八〇七号)ところ、昭和四八年一一月一五日拒絶査定を受けたので、昭和四九年一月一四日審判の請求をし、右事件は特許庁昭和四九年審判第九五号事件として係属したが、特許庁は昭和五七年四月二三日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年五月二九日原告に送達された。

二  審決理由の要旨

本願商標の構成及びその指定商品並びにその登録出願の日は、前項記載のとおりである。

ところで、洋菓子を取扱う業界においては、「アマンド」(amande)の文字を、洋菓子の風味を増すために用いるナッツ類の一品種の普通名称として使用している事実がある。そして、「アマンド」の文字は、アマンドを用いた洋菓子を表わすものとして、例えば、ヌガー・アマンド、アマンド・オ・ショコラ、アマンドのマドレーヌ等のように使用されているのが実情である(一九六九年六月二〇日、株式会社柴田書店発行「洋菓子」三二頁、一〇二頁、昭和五三年一〇月二〇日、同文書院発行「総合食品事典」四二頁あるもんどの項及び昭和五〇年六月一日、日本洋菓子協会発行の雑誌「ガトウ」六月号二七頁、三〇頁チョコレート菓子の項参照)。

しかして、本願商標は、別紙のとおり「アマンド」の文字を書して成るものであって、格別特異な表示方法とも認め得ないところであるから、該商標をその指定商品中「アマンドを用いた洋菓子」に使用するときは、これに接する取引者、需要者は前記の事実よりして、容易に洋菓子の原材料を普通名称をもって表示したものと理解するに止まり、自他商品識別の標識とは認識し得ないものと判断するのが相当である。

してみれば、本願商標は、その指定商品中の「アマンドを用いた洋菓子」に使用しても、単に品質を表わすにすぎず、また、これ以外の「洋菓子」に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。

請求人(原告)は、本願商標が洋菓子について永年宣伝、広告等に使用された結果、取引者、需要者間に広く認識された著名商標であるから、商標法第三条第二項の規定により登録されるべきものである旨主張している。

そこで、請求人の主張事実について、提出の甲各号証を総合勘案するに、「アマンド」の文字が請求人営業の洋菓子店の名称として使用され有名となっていることは認められるとしても、本願商標は、前記のように洋菓子の原材料の普通名称を表示するにすぎないものである以上、その指定商品に係る「洋菓子」について使用された結果、自他商品の識別標識としての機能を有するものとなったものとは認めることができないから、請求人の主張は採用できない。

したがって、本願商標は、商標法第三条第一項第三号及び同第四条第一項第一六号に該当し、登録することができない。

三  審決を取消すべき事由

(一)  「アマンド」という語は、「アーモンド」(クルミやピーナッツ等と共にナッツ類の一つであり、洋菓子の材料として重要な基本材料である。)を示すフランス語の「amande」を片仮名文字で表わしたものであるが、このアマンドの語がナッツ類の一種であるアーモンドを表わす普通名称としてわが国において定着している事実はない。

原告会社代表者瀧原健之が港区芝新橋において洋菓子の製造販売及び喫茶店の個人営業を始めた昭和二〇年代のはじめ頃のわが国は、英語が普及しはじめはしてもフランス語は一般的にはなじみの低いものであったが、その中で、「アマンド」なる文字は、原告代表者が用いる洋菓子店の名称及び商標として広く知れわたりはしても、「アマンド」の文字や言葉がナッツの一つであるアーモンドを意味するとは需要者はもちろんのこと、取引業者すら考えはしなかった。

その後フランス語がわが国に普及しはじめ、「アマンド」の文字が右アーモンドを意味することが業界の一部でわかっても、アーモンドのことは「アーモンド」と言い、「アマンド」と言うことはなかった。なぜならば、需要者、取引業者は洋菓子に使用されている「アマンド」の文字や語を見たり聞いたりするときには、原告が使用する洋菓子の商標であることを連想するからである。

被告が提出する《証拠省略》は、いずれも「アーモンド」のことをフランス語で表わすとすれば「アマンド」となるというような程度のことが記載されているにすぎず、「アマンド」の語がわが国においてアーモンドのことを示す普通名称であるということまでも表わしているものは見当らない。

また、容器包装した菓子類を販売する場合、チョコレート、ケーキ等の菓子の名称、製造年月日、製造所の所在地、製造者の氏名(名称)などのほか、原材料名をその容器包装に表示すべきことが食品衛生法の第一一条、同法施行規則第五条に定められているが、原材料にアーモンドが使用されている場合には「アーモンド」と表示されているのが実情であって、「アマンド」と表示されているようなものを見ることはない。

本願商標の構成は、「アマンド」の片仮名文字をマロンカラーを使用し、穂先を切取った筆でやや筆太様に無雑作に書いたような態様で左横書きしたものである。このように、本願商標はその構成自体からしても、商標としての特異性を具備するものであり、さらに右の構成を備えた本願商標は、包装紙、包装袋、包装用ひも類、車内広告その他のポスター類、プログラム類その他に表示して使用しているのであるが、これらの表示方法は、一見しただけで商標の表示そのもので、商標として使用されていることが分る。

したがって、審決が、本願商標は、その指定商品中の「アマンドを用いた洋菓子」に使用しても単に品質を表わすにすぎないとする理由はその根拠がない。

(二)  審決は、「アマンド」の文字が原告営業の洋菓子店の名称として使用され有名となっていることは認めるとしても、本願商標が洋菓子の原材料の普通名称を表示するにすぎないものである以上、その指定商品に係る「洋菓子」について使用されても自他商品の識別標識としての機能を有するものとなったものとは認めることはできないとして、原告の主張をしりぞけた。

しかしながら、「「アマンド」の文字が原告営業の洋菓子店の名称として使用され有名になっていること」は、とりも直さず、そのまま右「アマンド」の文字(本願商標)が、商標として商品・洋菓子について使用され、かつ有名になっていることを明示するものであって、両者は表裏一体をなし、一体不可分のもので、互に相矛盾するような性質のものではない。したがって、右「アマンド」は洋菓子店の名称として有名であると共に、洋菓子の商標として周知著名となり、自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているものである。

本願商標の周知著名性について

(イ) 本願「アマンド」の商標は、原告会社の代表取締役瀧原健之が、洋菓子製造販売と喫茶店の個人営業時たる昭和二二年頃その洋菓子の製造販売(と店)の表示として創作し、使用を開始したもので、現在に至るまで継続してこれを専用しているものである。

最初は新橋に開店、小さい店であったがその洋菓子を味よく見た目もよいものとして製造販売すると共に、その際本願商標を使用したところ、品質の良いことと本願商標の明るくてスマートな印象に語呂もよくて呼び易いことなどもあって、好評を博し、昭和二三年には原告会社を設立、本願商標に因みその社名を「株式会社アマンド洋菓子店」と名付け、該「アマンド」の商標を含み営業一切を承継した。爾後洋菓子の製造、販売に主力を置き、品質もさらに吟味し、衛生にも意を用いて努力を重ねた結果、販売量も増加したので、店舗も増やし、昭和二四年には有楽町店を、同二七年には日本橋店を開店し、同三一年から三七年の間には、銀座六丁目店、同八丁目店、赤坂店、六本木店、その他で約一三店舗と増大させ、銀座界隈を中心として販売地域を拡げたので、それに連れて売上高も着実にのび、昭和三八年頃には原告会社アマンド洋菓子店及び本願商標「アマンド」は都内有数の洋菓子店及びその商標として知られるようになり、洋菓子界の風雲児としてマスコミにも取上げられた。そして、昭和四〇年秋頃には、従業員数二二一名、店舗数一六店、年間売上高はほぼ八億円に達し、販売高、店舗数、及び規模等から言って都内でも屈指の洋菓子店となり、本願商標はそれと相表裏して需要者等の間に次第に広くかつ深く浸透して行った。

(ロ) 原告会社は、前記のように、次々と新店舗を開設して行ったが、その際、その都度ポスター、チラシその他の資料を配布して宣伝、広告を行い、そのポスター等にはすべて本願商標を表示して本願商標の普及と浸透を図った。その若干を例示すれば、次のとおりである。

(1) 昭和三九年、六本木店開設(当時一二店)に当っては、本願商標を表示したチラシ一〇、〇〇〇枚を刷り、全店の店頭に配置したほか各店舗の責任において、これをお得意関係、近所の人々、最寄の会社、団地、国電、地下鉄、私鉄駅頭にての手渡し、折込広告、その他の方法で手広く配布した。その際開店披露として本願商標を表示した“お茶とお菓子とお土産券”一〇、〇〇〇枚を全店に置いて来店者に予め渡し、持参者に本願商標を表示した包装を使用したお土産を贈呈した。

さらに本願商標を表示したポスター一、〇〇〇枚をつくり、全店に掲示すると共に出入の商人や会社等にも関係各所に掲出してもらい、各方面に宣伝、広告した。

(2) 昭和四〇年、渋谷店開設に当っては、本願商標を表示したチラシ一〇、〇〇〇枚を前記六本木店と同様な方法で配布したほか、本願商標を表示した各国の写真入りの案内状五、〇〇〇枚をつくり、三、〇〇〇部をダイレクトメールで発送し、残部を全店の店頭に配置して来店のお客に手渡した。

(ハ) 本願商標を使用した原告会社の洋菓子は、その品質のよいことと独特の味を持っていることのほか、社員教育と店員教育が行届いていることどなから、各階、各層の人々に愛好され、また多くの芸能人の顧客を持つようになり、その芸能人が新聞紙上を通して原告の洋菓子を賞賛したこともあって、更に広く、高い評価を受けるに至った。

原告会社は、右のように、本願商標をシンボルとしてかざし、巾広く販売すると共に本願商標を売込んだために僅か一年の間に約一億円の売上増となって、昭和四一年度は売上約九億円を数え、これに前年度の八億円にそれ以前の売上約七四億円を合算すると、本願商標の出願時たる昭和四一年には売上総計約九一億円に昇り、二〇年を越す長期の使用、全国の人が集る銀座その他の中心地に各店舗が存在して良心的に販売したこと、本願商標の簡潔でしかもマロンカラーの明るくムードのあるイメージ、これらをマスコミが取上げて報道したこと等が相関して、本願商標は、その出願時には既に原告会社の洋菓子を表示するものとして、東京都はもちろん近隣諸地域からさらに広く全国にわたって取引者取び需要者を含め一般大衆の間に周知著名となった。

(ニ) 原告会社はその後、さらに顧客の声に應えて販売を強化するため、従来の製造部門を独立してアマンド食品株式会社を設立、その社長に製造部の部長を就任させて、原告会社の管理下において品質の向上に努めさせ、製造した洋菓子の全部を原告会社に納入させ、原告会社は需要者へのサービス、販売の増進に専念した。その結果、昭和四四年には本願時より六店増加、四五年にはさらに五店、四九年にはさらに一店、その後七店を増加している。その分布は、銀座を制するものは東京を制し、東京を制するものは日本全国を制することからして、銀座に銀座八丁目店、銀座六丁目店、銀座六丁目マロンコーナー、銀座八丁目マロンコーナー、銀座七丁目店、銀座五丁目店、銀座店、これに近隣の新橋店、有楽町店、日比谷店、日本橋店、三越売店を加えると、銀座圏に一二の店舗網を張り、それに、麻布、赤坂、六本木、渋谷、新宿、五反田、目黒、鶴瀬、軽井沢と販路を拡げ、買い易くして需要者に喜ばれ、これがまた本願商標の著名化とこれを付した洋菓子の売上の促進につながった。

(ホ) 原告会社が行った本願商標の広告宣伝の一部を次に例示する。

(1) 車内広告

昭和四七年から四八年にかけて、国電山手線、横須賀線、湘南線、地下鉄、東急バス、京浜バス、都バス(以上日本宣伝株式会社扱)、都バス(日本広明社扱)の車内中吊、額面等に本願商標を表示した原告会社の商品洋菓子に関する広告を展示した。

その他テレビ広告、雑誌広告、年賀状、クリスマスカードその他夥しい種類と数の宣伝、広告を行って来ており、その何れにも本願商標を表示してこれをさらに広く一般大衆に知らせその人々の関心を引きつけ、また現在引続きそのようにしている。

(2) 抽選販売

昭和四六年から四七年にかけて特賞としてトヨタの「カリーナ」が当る抽選販売を行った。これは本願商標を表示したチラシと「アンケート」用紙各約一〇万枚を原告会社の全店(当時二六店)に配置してこれらを原告会社の各店に来店した顧客に渡し、またチラシの方は全販売店が各自店頭においたほかそれぞれ工夫して最寄の場所、会社、団地、一般の人々、折込等の各種の方法で配布した。また当時この企画をラジオのスポットで流したりした。プレゼント品中最も多い五等は本願商標を表示した原告会社の商品クッキーを当てた。

(3) その他昭和三六年から同五〇年にかけて、有名芸能人のリサイタル等を後援し、そのプログラム、ポスター等に本願商標を表示した。

右のように、本願商標はその出願時には既に、おそくとも本件審決のなされた昭和五七年四月二三日頃までには、原告会社が製造販売する洋菓子を示すものとして、東京都を中心としてその周辺諸県さらには全国的に取引者及び需要者間に広く認識され著名化されるに至ったものである。

よって、本願商標は、この点において商標法第三条第二項の規定により充分商標登録を受けることができるものであり、また同法第四条第一項第一六号の規定に該当しないものである。

第三被告の答弁及び主張

一  原告の請求の原因及び主張のうち、一、二の事実を認め、三の主張を争う。

二  原告は、「アマンド」の語は「アーモンド」を示すフランス語の「amandl」を片仮名文字で表わしたものであるが、ナッツ類の一種である「アーモンド」を表わす普通名称として、わが国において定着している事実はない旨主張する。

しかしながら、「アマンド」は「アーモンド」の同義語として、わが国において本願商標の登録出願前から現在に至るも普通に使用されているものである。また、洋菓子にはフランス風のものが多いところから、これを取扱う業界においては、洋菓子の原材料や洋菓子名をフランス語をもって表わす場合も多く、「アマンド」もこれに当る。そして、その用途むきに加工されたものを「スライスアマンド」、「焼きアマンド」、「粉末アマンド」(アマンドプードル)、「アマンドペースト」、「アマンドクリーム」等のごとくそれぞれ指称している。

さらに、原材料に「アマンド」を用いた洋菓子には、例えば「ヌガー・アマンド」、「アマンド・オ・ショコラ」あるいは「アマンドのマドレーヌ」等のごとく指称されているものがあることなどをみても、「アマンド」の文字は、洋菓子の原材料や品質を表示するものとして普通に使用されているものといえる。

したがって、本願商標を原材料に「アマンド」を用いた洋菓子に使用するときは、自他商品識別の標識とは認識し得ず、これ以外の洋菓子に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとした審決の認定は正当である。

原告は、本願商標は「アマンド」の片仮名文字をマロンカラーを使用し、穂先を切取った筆でやや筆太様に無雑作に書いたような態様で左横書したもので、その構成自体からしても商標としての特異性を備えており、さらにその包装紙等への表示方法は商標の表示そのもので、商標として使用されていることが分る旨主張するが、本願商標は普通の注意力をもってすれば、「アマンド」の文字を書して成るものと容易に認識され得るものである。

三  原告は、本願商標は永年使用された結果、需要者が原告の業務に係る洋菓子であることを認識することができるものであると主張している。

しかしながら、原告が永年の使用により周知著名となっているとする本願商標は、原告提出の全証拠によっても、特定の商品「洋菓子」の識別標識として使用されているものとはいい難く、原告洋菓子店の営業及びその宣伝活動等について、原告商号(営業標識)の略称をもって表示するにすぎないものといわなければならない。

前述のように本願商標は、洋菓子の原材料の普通名称と認定される以上、これを広告宣伝しても自他商品を識別する標識としての機能を果たし得ないものというべきである。

したがって、提示された証拠をもってしても、なお、本願商標が永年宣伝、広告等に使用された結果、取引者、需要者間に広く認識されるに至ったものと認めなかった審決にはなんらの違法もない。

第四証拠《省略》

理由

一  原告の請求の原因及び主張のうち、一、二の事実については当事者間に争いがない。

そこで、本件審決にこれを取消すべき違法の事由があるかどうかについて考える。

二  《証拠省略》を綜合すると、「アマンド」という語は、洋菓子の材料となるナッツ類の一種を示すフランス語の「amande」を片仮名文字で表わしたものであるところ、わが国の洋菓子を取扱う業界においては、少なくとも本件審決時たる昭和五七年四月二三日当時においてはその意味を表わすものとして普通に使用されていたものであること及び同じ洋菓子業界において、「アマンド」の文字はアマンドを用いた洋菓子を表わすものとして、例えばヌガー・アマンドのように使用されていたものである事実を認めることができる。

原告は、フランス語の「アマンド」が表わすナッツの一種は、わが国においては「アーモンド」と呼ばれ、「アマンド」の語がナッツ類の一種であるアーモンドを表わす普通名称として定着している事実はないと主張し、その趣旨を示すものとして書証を提出する。しかし、原告提出の証拠も、「アマンド」の語がわが国の洋菓子業界において前認定のように、普通に使われている事実を否定するものではない。原告の主張は理由がない。

原告は、また、本願商標の構成は特異であり、その特異な商標を包装用紙等に表示して使用していることからだけでも、本願商標は商標として使用されているのであって、単に品質を表わすにすぎないものということはできないとの趣旨を主張する。

しかしながら、本願商標は別紙記載のとおりの構成から成るものであって、普通の注意力をもってすれば、誰でもこれを「アマンド」と読み得るものであり、「アマンド」が前記のような意味をもち、普通に使用されているところからすれば、原告の主張は結局において理由がない。

三  《証拠省略》を綜合すると、原告が事実摘示第二、三、(二)の「本願商標の周知著名性について」の項で主張する事実を認定することができ、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、本願商標は、おそくとも本件審決がなされた昭和五七年四月頃までには原告の販売する洋菓子を示すものとして東京都を中心に全国にわたって取引者及び一般需要者の間に広く認識されるに至ったものというべきである。

被告は、本願商標は、洋菓子の原材料の普通名称である以上、これを広告宣伝しても自他商品を識別する標識としての機能を果し得ないものであるとの趣旨の主張をするが、商品の品質、原材料を表示する標章のみからなる商標であっても、使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できる場合があることは、商標法第三条第二項が当然予定しているところであり、また、あり得ることであるから、被告の主張は理由がない。

四  右のとおりであるから、本願商標は、その指定商品に係る「洋菓子」について使用された結果、自他商品の識別標識としての機能を有するものとなったものとは認められないとし、本願商標は商標法第三条第一項第三号及び第四条第一項第一六号に該当し、登録することができないとした審決は違法であって取消しを免れない。

よって、審決の取消しを求める原告の請求を認容し、訴訟費用は敗訴の当事者である被告の負担とすることとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高林克巳 裁判官 杉山伸顕 八田秀夫)

〈以下省略〉

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